1.2 奥さんの身近にあるAI

自分の身近にあるAIらしきものについて、推測を始めることによって、AIに関する興味が少し湧いてきた御曽崎は、もう少し範囲を広げて探してみることにした。そこで目線を奥さんの方へ移した。

掃除ロボ

御曽崎の奥さんは時々ロボット掃除機(掃除ロボ)を使う。御曽崎自身はこの掃除ロボは自動で床を掃除してくれるが、この程度のものはAIとは言わないだろうと漠然と思っている。彼がこれをAIと考えないのは、掃除の仕方がただまっすぐに進み続け、ぶつかれば方向を変えるといった、あまり賢そうな方法ではないからである。電池の中の電気がなくなってくると、自分で充電器のほうに戻るというのは賢いともいえるが、その程度のことならば、センサーとWi-Fiのような無線システムで容易に実現できそうだと、御曽崎でも想像できた。

それに対して、「最近のものは掃除しているうちに家具の置き場も含めて家の中の地図を作成し、効率よく掃除をすることができるそうよ」と奥さんが言ってきた。「自分で図面を作るなんて、しかも、当然その図面を使って、より効率的に掃除ができるようになるのだから、そこまでいくといかにもAIを使っていると感じられる」と御曽崎の心境が微妙に変化してきた。しかしよしんば、これまでの掃除ロボはAIでなく、新しいのはAIであると考えたとしても、ではどこで線引きをすればよいのかはよくわからないというのが本音だった。

掃除の次に洗濯はどうかと思って、いつもは奥さんに任せきりの家にある洗濯機をのぞいてみた。驚いたことに洗濯機のパネルには十以上のボタンや表示がある。奥さんにどうやって使い分けるのか聞こうかと一瞬思ったが、やぶ蛇にならぬうちにやめておいたほうがよいと思い直して、そのまま洗濯機の蓋をそっと閉じた。

 その代わりに、御曽崎は家で食事をしている時に、やや自慢げに自分が見つけた身近にあるAIの話を奥さんにした。すると奥さんからは、いささか驚いた返事が返ってきた。「あら、そんな例だったら沢山あるわよ。あなたが知らないだけよ。きっと、ボーッと生きているからよ。」

テレビの中でも

御曽崎の奥さんはテレビでスポーツ番組を鑑賞するのが好きだ。テニスの世界大会などでは「チャレンジ」という制度があった。ボールがラインの内側だったか外側だったかの審判の判定に不服がある場合、選手がそれを訴えるとビデオが流され、それによって判定が見直されるものだ。結果が示されるまでに数秒かかるので、奥さんはその前に「あれは入っていたに違いない」などと、自分勝手に判定をするのを楽しんでいる。彼女はそれをずっと長いこと、相撲で「物言い」がついたとき、どちらの力士の足が先に土俵から出たかなどを再生ビデオで確認する方法と同じようなものだと思っていた。ところがテニスの場合はAIを使っていることを、ごく最近友人から教えてもらった。

テニスのチャレン判定に使用する画像(ネット画像より)

それを聞いた御曽崎は、ちょっと感じるものがあった。相撲の場合は本物の足がビデオに映るのに対して、テニスの場合はボールの軌道と着地点を示す黒い影が映し出されるが、なにか人工的な雰囲気がある。だから人工知能なのかと、どこに知能が使われているかもはっきりわからず、こんなふうに気づかずにAIの恩恵を受けていることもあるのだなと興味を持った。

{ここは考えどころ}テニスの「チャレンジ」用システムではどのようにAIが使われていると思いますか。
この答えは後に原理的な面も含めて考えていきます。でもその前に自分で考えてみてください。ヒントは上に述べた相撲ビデオとの違いにあります。これからAIについていろいろ考えていく上での準備運動になりますよ。

 さらに奥さんはテレビでこんなのも見たわよ、と教えてくれた。「一つは化粧品に関するもので、AIを利用したバーチャルメイクサービスというのがあって、これを利用すると実際の化粧品をつけなくても、短時間で多くのバリエーションを試せるんだって。私も近いうちに使って見ようと思っているのよ。」

バーチャルメイクの例(ネット画像より)

 「もう一つお肌に関することで、新型コロナウイルス禍を受け、心の健康が悪化するメンタルヘルスの問題を抱える人が増えている中、AIが肌の状態を画像解析してアドバイスしてくれるスマホのアプリがあるそうよ。私も、もしもコロナにかかって、お肌が荒れたらこのアプリをダウンロードして、使ってみるわ。」そう言われて、「確かに自分には化粧品やら、お肌の荒れなど関心はないわな。でも、そんなところにもAIの波は押し寄せてきているのか。」と、御曽崎はいささか驚いた。

他にもテレビに中で

そのようなことで自分の目が少し肥えてきたようで、翌朝テレビでニュース番組を見ていると、画面右上に「AI自動音声でお伝えしています」とあるのに気が付き「ここにもAIの波か」と苦笑した。おそらく今までにも、そのことを見ていたはずであるが、おそらく奥さんが言うように、ボーッとみていたので気が付かなかったのであろう。少し恥じると同時に、「なるほど、新しいことに興味を持つと視野が広まるようだな」と、多少の満足を覚えた。

少し広まりだした視野のおかげで、御曽崎の頭には直ちにいくつかの疑問が浮かんだ。この「AI自動音声で伝えている」という、ニュース番組を見ても、番組の他のアナウンサーは伝えている部分と何も変わりないではないか。どこがAIなのだろう。ただ、原稿をAIが読み上げているだけなのか。もしそうだとしたら、本当にAIを使っていると言えるのだろうか。そんな小さな疑問が浮かんだが、所詮朝の忙しい時のこと。直ぐに忘れて、出勤した。

{ここは考えどころ}AIに好奇心を持つと視野が広まる!?
AIに少しばかりの興味をもった御曽崎は「新しいことに興味を持つと視野が広まるようだな」と実感したようですね。確かに、人間は起きている間は、意識せずとも目や耳に無数の情報が飛び込んできます。とてもこれら全てを記憶したり、検討したりすることはできません。それどころか、大部分は飛び込んできても認識すらしません。
このことを御曽崎は人間の目や耳に自然と必要な情報とそうでないものと分ける機能が備わっているからだと思っています。そのことをいつか会社のITエンジニアの板野に話をしたら、「あはは、ビルトインフィルター(埋め込み型フィルター)と言ったところですね。そのフィルターの特性、すなわち何を通して、何をはじき出すかは、各自の頭が決めるということになりませね。面白い考えですね。近い将来、そのような機能を持ったAIが出現してくるかもしれませんね。」と言われたことがある。
皆さんもAIに対して好奇心を持つことによって、自分のビルトインフィルターの特性を変えて、視野を多少広めてみませんか?

視野を広げだした御曽崎

当初は自分の生活の中で、AIなどはあまりに使っていないなと思っていた御曽崎だが、テニスの「チャレンジ」のように、自分が認識していないところでもAIが使われている例もあるし、自分の興味のない分野でもAIは使われ始めていることに刺激されて、1~2週間程度新聞記事の中でAIの利用の例を集めることにした。やってみると、たかが2週間程度でも千差万別、多種多様なAIが利用されているのに驚いた。記事の概要を簡単に並べてみると、

・契約書点検:AIが契約書の中身をチェックして評価するサービス。
・ローン審査:AIが年収や職業などの情報をもとにリスクを算定。ローンの可否だけでなく、契約者ごとに優遇金利を設定する。
・行政相談サービス:条例に関するAIを活用したチャット形式の問い合わせの対応。サイトで質問すると、AIが蓄積した情報を基に内容を分析し答える。
・気象予測の精度の向上の研究:予測期間や解像度が異なる現在の複数の計算プログラムを、AIを活用することで最適に組み合わせて一体的に扱えるようにし、観測と予測の精度の向上を目指す。
・台風の急発達の予測:サンプル数が少なく、メカニズムがわかっていない台風について、気象衛星の画像データや海水温、移動速度などの様々なデータから、それが急発達していくかをAIが予測。
・医療現場:診断精度が高まり、AIが遠隔地医療の切り札になる可能性も。

 どれも先ほどのテニスのチャレンジのようには、自分の生活の中で、「ここでAIの恩恵を受けている」という実感はないものの、いろいろ見えぬところで恩恵を享受している可能性があるなと御曽崎は思った。と同時に、ちょっと興味をもって新聞の見方を変えるだけで、視野が広まって、新しい発見ができるものだなと少しばかり感心した。

 そういえば、御曽崎はよく会社の若い連中に向かって「これからはクリエイティブにならないといけない。それが会社のためにもなるし、個人のためにもなる。クリエイティブになるためには、新しいことに興味を持ち、視野を広げて頭を柔軟にしていかなければいけない。」等と、分かったようなことを言っている割に自分はどうなのと、じくじたる思いがあった。

 「そうだ、これからはもう少しAIに関心を持って、AIをキーワードにして視野を広めたり、新しい発見をしていくのもよさそうだな。ひょっとして、第二の人生のためのヒントなんかも得られかもしれないとつぶやいた。

{ブログの中のナビゲタ}皆さんはどのくらい身近でAIに触れていると思いますか。「あまり」という方も、「結構」という方もいらっしゃるかとは思いますが、どちらにせよ、このブログを読み進めることによって、自分の視野を広めたり、新しい発見をしてエンジョイされることを願っています。
なお、ここでサンプル的に取り上げたAIに関する新聞記事については、個々にどのような仕組みでできているか、どのように使っているのか、なぜそのようなことをAIができるか、といったことを説明は省略しますが、この先ブログを読み進めていただくと、自ずとそこら辺の事が分かってくるようになると思います。是非、期待しながら読んでいってください。

ところで、御曽崎が忘れかけていた「AIによるニュース」について、何日か後に、偶然ネットでその仕組や特徴などを教えているサイトを見つけた。ここがそのサイトです。御曽崎と同じような疑問を持つ方はどうぞクリックして、見てください。ただし、そこからここに戻れなくなる可能性があります。その場合は、新たにこのサイトにアクセスしてください。


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“1.2 奥さんの身近にあるAI” への1件のコメント

  1. […] 例えば、AIができることで最も注目されていることの一つは、判断ができるだけでなく、学習をすることによってその精度をより高くすることができる、という点である。たとえば碁のプログラムのほとんどは学習機能をもっている。このような碁のプログラムは、ゲームを行う回数を重ねていくと、どんどん強くなっていく。前の章の中の「1.2 奥さんの身近にあるAI」で取り上げた最新型の掃除ロボも学習機能を持っているといえる。このように、最近注目されているAIのほとんどは学習機能を持っている。そうなると「学習」というキーワードをこの自分流のAI概念の中に入れるのも一案ではないかと思われる。 […]

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