1.3 「AIとは何か」に挑戦した御曽崎

混乱してきた御曽崎の頭

このように自分の身の回りのことと、新聞記事やネット上の記事を中心に、素人なりにAIについて考えている間に、御曽崎はだんだん頭が混乱してきた。身の回りにどのようなAIがあるかを調べたり、考えてきたのであるが、「何をもってAIである」と言えるのかという疑問を抱き始めたのである。

例えば、自動運転のクルーズコントロールの例を考えてみよう。自分の車の現在のスピードとあらかじめ設定されたスピードの差から、アクセルを踏んだりブレーキをかけたりすることは簡単そうに見える。差がプラスならばアクセルを、マイナスならばブレーキをかければよいわけだから。また、自車のスピードと前方の車との距離でコントロールするのもあらかじめ設定した数字で単純に判断できそうである。車両間の距離を計測し、それを自車のスピードで割った答えが、ある値を超えるか否かだけを判断するだけなので、その程度のことならばAIという程のことはないと思った。

ところが自分と前を走る車の双方のスピードの差も考慮するとなると、計算が複雑で、しかも瞬時にそれを計算するとなると、なにか優れもののような気がしてくる。実際同じ車間距離でも、両方のスピードの差によって、加速する場合も減速する場合もある。両方のスピードの差で車間距離を割った答えを、さらに自分のスピードの大小を斟酌しながらアクセルやブレーキをコントロールしていることになる。さらに実際の車は、アクセルやブレーキの踏む量を状況に応じて加減しているようなので、ますます複雑な計算を必要としていると思われる。

しかしながら御曽崎は「計算が複雑だからAIである」というのには抵抗を感じる。それが「瞬時に計算する」というレベルにあがってもAIと言えそうにもないからである。例えばパソコンの従来からの使い方である表計算でも、かなり複雑な計算式をたくさん埋め込んでも、どこかの数値を変えたら、たちどころに関係するところだけを計算して変えてくれる。そのように考えていくと、何をもってAIというのだろうと考え込んでしまう。

それに対して、奥さんが言った最新の掃除ロボはAIであると確信をもって言えると思っている。その理由は、最初掃除ロボは御曽崎の家のことは何も知らない。にもかかわらず、運転実績を重ねていくうちに、徐々にその家の形を覚え、それに適した掃除方法を考えて、実行する。これはそれなりの知能がなければできない、と思うからである。「自分は目隠しをしたら何回掃除しても、そんなことはとてもできそうにない。これはAIだからできるのだ」などと、滑稽なことを考え始めた。

御曽崎はこの例から、「何をもってAIというのだろう」という疑問に、AIとは「使えば使うほど利口になるシステム」というのはどうだろうかと考えた。結局こんなところかというところで、その晩は床についた。

一難去ってまた一難

これで納得したつもりであった御曽崎は、翌日また悩み始めた。それは、次のような点からであった。例えば、会話ボットのことを考えると、自分が使っていくと、利用者の特徴をつかんで利口になる要素がある。新しいことを尋ねられることによって新しい回答を作り出していき、それらが蓄積されて利口になることもありうる。

一方、この会話ボットが何もしなくても、単にバックに接続されるデータベースを増強したために答えられる範囲が広がり、利口になったように見えることもありうる。さらに、利用者の意見を反映して、設計者がどこかを改造することによって、利口になることもありうる。このように人が手を加えることによって前よりも良くなったということでは、「これはAIである」とは言えないであろう。一体どこで区別すればよいのだろう。

さらに、はじめから利口ではあるが、使うことによって、より利口になることはない機械はAIとは言えないのか。いや、使えば使うほど利口にならないものでもAIとか、AIを利用したと言われるものはあると思われる。最近AIであることを知ったテニスの「チャレンジ」用システムは「使えば使うほど利口になるシステム」とは言えそうにない。使っていくうちに判定がより正確になっていくようになることはないだろうから。にもかかわらず、これはAIと言える。このように「AIとは使えば使うほど利口になるシステム」とは断定できないことに気づいた。では、あらためてAIとはなにか、悩み続ける御曽崎であった。

{ブログの中のナビゲタ}この問いは、結構奥の深いもので、ここから段階的に考えていきます。


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コメント

“1.3 「AIとは何か」に挑戦した御曽崎” への2件のフィードバック

  1. […] 1.2へ進む 1.3へ進む […]

  2. […] とは言うものの、自分で勝手に定義しろ、あるいは概念を固めろと言われても、どうしていいか迷われる人も多いかもしれない。でもそこは前の章の中の「1.3 AIとは何かに挑戦した御曽崎」で彼が考えてきたようなものから出発して、だんだん変えていけばよいでしょう。 […]

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