AIの開発の歴史には、これまで大きく三つの山がある。
AIという言葉が初めて現れたのは1956年に米国で開催された「ダートマス会議」である。主として論理学で用いられるような記号を使って、推論によって目的を達するという枠組みが議論された。当時の専門家たちは、これで人間の知能をコンピュータで再現できるのではないかと、かなり興奮した。しかし残念ながら、当時のコンピュータの性能ではごく小規模な探索しかできず、現実世界の問題にはほとんど適用できなかった。その現実の前に、多くの人が開発に見切りをつけてしまった。これが「第1次AIブーム」と言われる山である。
その後、80年代にAIブームが復活した。その内容は、特定の専門家の知識をデータベースに蓄え、専門家の仕事をコンピュータで再現しようという試みだった。これは専門家、すなわちエキスパートの知識をシステム化すると言う意味で、当時「エキスパートシステム」と言われた。多くの「エキスパートシステム」が開発されたが、満足のいくものがほとんどできなかった。これはいざやって見ると、専門家はデータベースに明確に定義するのが難しい要素も使って仕事をしているためで、結局このアプローチも失敗に終わってしまった。これが第2次AIブームと言われる山である。
例えば囲碁の例をとれば、囲碁の名人はたくさんの「手」を覚えていて、これを適用して勝つ。従ってこれらの「手」をたくさんデータベースに入れて、コンピュータがよい「手」を選べば勝つ、という理屈である。しかしながら、囲碁の名人が強いのは単にたくさんの「手」を知っているからだけでなく、他にもいろいろな要素を考えながら戦いを進めるからである。それらはデータベースに入れることが難しいことが分かってきて、結局頓挫したわけである。
現在は第3次AIブームである。この第3次AIブームの中心は深層学習(ディープラーニング)と言われる技術である。実はこの考え方自体は第1次AIブームの頃からあったが、当時のコンピュータの性能では、とても実用の領域に至らなかった。それがコンピュータの進化とAI研究の発展が重なって、機械による学習機能が目覚まし進歩を遂げるようになってきて、第3次AIブームが起きて現在もなお続いている。
ここでのポイントは、機械が自ら学習することによって、人間がプログラムとして事前に全てのやり方を示さなくても、うまく仕事をこなすというところに到達したという点である。これは先ほど議論した、従来のコンピュータとAIの違いを示す一面でもある。
果たしてこの第3次AIブームは当分のあいだ続くのか。これまでのところ機械学習を取り入れたAIは注目され、多くのものが開発されてきている。それを見ると、少なくともこれまでの第1次、第2次のブームの時のようにあっけなく頓挫することはなさそうである。
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